午前中の授業が終わって昼休み。
昼めしを買いに雅史といっしょに購買部へとむかっていたときのことだ。

「えっと、ですからこれは単なる格闘技ファンのための同好会ではなくて、

ええっと、みんなで、ともに、新しい格闘技を研究、開発しながら――――」

向こうの廊下のあたりからそんな声が聞こえてきた。
何やってんだ? クラブの勧誘か何かだろうか?

雅史「どうしたの浩之?」

ヒロ「ん? いや、あれ」

雅史「クラブの勧誘みたいだね」

「格闘技を学ぶことで、私たちは非常に多くのことを学ぶことが出来ます。
基本的な部分が強くなれば、新作でも相手にタコられることが少なくなりますし、
連勝だってできます。他にゲームシステムにケチをつけたり、普通に永久コンボだって
見つけられるようになりますし、中段、めくり、小足きざみの重要性や自分独自の連携パターンなど・・・・」

女の子はいつでもスーパーアーツを発動しそうな熱っぽさで力説していた。
がそれを聞いているまわりの生徒達はただ面白がっているだけと言った様子だ。

クスクス笑いに混じって
「やだあ、なんか汗くさあい」とか「やだあ、ハメくさ〜い」などと言っている。

それでもショートカットの女のコは一生懸命に話を続けている。

「せっかくの同好会なんですから、相手を精神的に追い詰める萎え萎え連携や待ち論、
連コイン野郎への対処法は抜きにして、のびのびとやっていきたいと思います。
まずは実際に体を動かし、格闘技の面白さ、奥深さ・・・」

「ねえねえ」

一人の女生徒から質問の声があがる

「はいっ?」

「それって実際に蹴ったり殴ったりするわけでしょ?」

「ええ、まあ格闘技ですから・・・」

「やだあ、それって危ないじゃん」

「あの、一応ブロッキングとかありますし、スパーリングとかのときは
パーソナルアクションの使用も認めますから、一部の連中はそれほど・・・・」

「終わってからシャワーとか使えるの?」

「あっ・・・えっとですね・・・・血のシャワーならけっこうみられますし・・・今のところ部室はなくて」

「えー、それじゃ汗かいたらどうすんの?」 「着替えとかはー?」 「部費は?」

「あ、あの〜」

嵐のような質問責めに女の子はタジタジになる。

ヒロ「クラブの勧誘も大変だな」

雅史「そういえば浩之って格闘技好きなんだよね?」

ヒロ「えっ!? なんで??」

雅史「よく、”スタン値のみじけー奴は闇時雨でウハウハだぜ”って僕に中Pから決めてたじゃない」

ヒロ「てめえの昇りジャンプ大Pのほうが嫌だけどな」

雅史「浩之、入ってあげれば?」

ヒロ「そういうお前はどうなんだよ」

雅史「僕はサッカー部だし、サディストでもないし、殴り合いにも興味ないしね」

ヒロ「そのわりにゃサマーやらソニックやら軍人フェイスで・・・」

雅史「あれは、アメリカの軍事演習をみようみまねでやってみただけだよ。
必殺技や通常技の名前も適当だしね。あと僕設定で格闘家を憎むことになってるから」

どこで軍事演習を見たのかはわからないがあえて聞かずに話題をそらすことにした。

ヒロ「そうそう、、あのショートカットの女の子。ずいぶんと・・・」

雅史「あっ!」

ヒロ「な、なんだよ?」

雅史「そういえば急がないと売り切れちゃうよ」

しまった!! このままではカツサンドの代わりに菓子パンなんぞをつかまされる可能性が!!

雅史「早くいかないと」

オレは・・・

○A、でもやっぱりあの子の話が気になった
 B、カツサンドがっ!!
 C、昼食キャンセル鎧通し

ヒロ「わりぃ雅史。お前先に行ってカツサンドとウインナーロールとチキンエッグとツナサンド買っといてくれ」

雅史「えっ!?」

ヒロ「頼んだぞ」

そーいってオレは例の人だかりへと足を向けた。

雅史「無様な敗北をくれてやる」




女の子の熱心な説明は続いていた。

「現代の格闘技は決して単なる腕力の競い合いではありません。ルールがあり、

作戦があり、駆け引きがあります―――」

すでに自分だけの世界に入っているようだ。

「現在、ひとくちに格闘技といっても実に様々な種類が存在します。

メジャーなものでいえば柔道、空手、ボクシングなどがあると思いますが、

その他にもまだまだ数え切れないほどの格闘技があります。日本だけを例にあげても

相撲や合気道もありますし、忍術、骨法、サイキョー流、みようみまね、〜〜流古武術、

ブーメラン+なんたら、などなどのウルトラマニアックなものも多く見られます。

さらに世界へと目を向ければ中国にはサイコソルジャー、太極拳、韓国にはテコンドー

タイにはムエタイ、ロシアにはサンボ、レッドサイクロン、インドにはヨガ。

マイナーなものとしては、ブラジルのアマゾンで育つ、ドイツの科学力、究極神拳、

サイコパワー、本能、海賊、ルチャ、モンゴル相撲など数え上げればきりがない、

星の数ほどの格闘技が存在します。これほどあまたある格闘技ですが、

これらの格闘技が同じ舞台に立つことは決してありませんでした。

ですが1994年・・・銅像好きで美人な秘書を持つどっかの国のいかれたオヤジが、

キャラ人気と調整無視でキングオブファイターズ、略してKOFが開催され、

以降、総合格闘技が一般の注目を浴び始めました」

女の子はいまやひとりで突っ走り。オレ以外のギャラリーは誰一人としてついてきていない。
みんな逃げるようにさらさら〜とその場から立ち去っていった。

「そしてその影響は日本の高校格闘技界にまでおよぼしているのです。

昨年、企業主催の全国総合格闘技選手権ともいうべき、エクスト・・・・」

ペケスト? いや違う。だが彼女はそこで言葉を止めて、キョロキョロとあたりを見回した。

「な、なんじゃっ!??」

「・・・・みんなどっかいっちまったぜ」

オレが言うと、女の子はもう一度ゆっくりとまわりを見渡し、

やがて深いため息とともにがっくりとうなだれた。

「はあっ、しまいじゃこりゃ・・・・うまくいかんのう・・・」

ヒロ「・・・・・・・」

「わしゃあ、やっぱり勧誘が下手じゃのう」

女の子はなげいたまま小声でつぶやいた。

「こんなんじゃいつまでたっても綾香さんにおいつけん・・・」

どこの方言なんだろう、なんか無理して標準語をしゃべってたみたいだ。

「・・・あ、あの〜・・・何か?」

女の子は顔を上げて言った。

ヒロ「いや・・・話の続きをね。さっきペケストやらジェットストリームアタックやら・・・・」

「・・・・??・・・・あっ、エクストリームのことですか?」

ヒロ「そうそう、それ」

「あっ、えっとですね」

いったん口を開きかけた彼女だが、なぜか途中で言葉を切った。

「・・・もしかして、格闘技、お好きですか?」

ヒロ「ん〜、まあどっちかといやあ、仕事っちゅーか、設定っちゅーか・・・・つっても全然詳しくないぜ?

手からなんかだしたり、車素手で壊したりする連中とたまに戦う程度だから」

「いえ、それだけで十分です」

ヒロ「君はずいぶん好きそうだね」

「大好きじゃあ」

ちょっぴりボーイッシュな、すがすがしくない強烈な笑顔だった。

続く。

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